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愛する妻への手紙

最初の手紙から読んでください。http://familin2006.hatenadiary.jp/entry/2014/11/25/093359

47通目、あの日電話にて3

妻へ

ずいぶん間が空きました。
前回手紙を書いてから今日までの間に、僕にはあのひとからの手紙が届き、あなたの気を悪くした無表情を見ることになりました。

気のせいだろうか。
それならそれでよいのだけれど。

僕があのひとに想いを伝えたあの日、僕が聞いた言葉のなかで、もっともショックで印象に残っているフレーズがあります。

そこにどんな理路があったのか思い
出せません。
しかし、僕はたしかに言ったと思うのです。

俺はきみと結婚するのだと思っていた。

そんなあまりにも素朴で正直な感情を、僕は吐露したのです。

本人を前に、よくもここまで僕は言ったものですね。
プロポーズよりも恥ずかしい告白。

そして、僕はあのひとの言葉にもっと恥ずかしい思いをし、赤面することになるのです。

あのひとがなんと言ったか。




「みんなそう思っていたよ」




そう、あのひとは言いました。
僕の聞き慣れた声で。

みんなそう思っていた。
みんなそう思っていた。
なのに僕はそうしなかった。
意思でなく、恐怖で、その決断を遠ざけた。

みんながそうだとわかっていたことに、当の僕だけがわかっていなく、勇気を出すことができなかったのです。

今でも思います。

みんながそう思っていたように、僕自身も思えていたら。
あのひとは僕といるのが当然だと、傲慢のように力強く僕自身が思えていたら。

少なくとも後悔のない未来を、僕は歩んでいたはずなのです。

僕が抱えている後悔とは、十分に蓋然性のある事象に、単なる気の弱さでもって、それを掌から逃したことなのです。

僕は、自分の勇気のなさに、自信のなさに、心の奥底から失望するのです。

大昔に二度と繰り返さないと決意した間違いを、再三にわたり犯してきたのです。

ここまでが僕のあの日の電話の全容です。

僕のいち人間としての情けなさを理解してもらえたでしょう。

付け加えると、僕はまだひとつ、あのひとに確認したいことが残っています。

そう思っていた「みんな」のなかに、あなたは含まれるのかーー

それを今日も気にして、生きております。