愛する妻への手紙

最初の手紙から読んでください。http://familin2006.hatenadiary.jp/entry/2014/11/25/093359

36通目、傷みの選択

妻へ

ゴールデンウイーク、楽しかったですね。
ぼくが何度か訪れたことのある神戸が、今回の行き先でした。

神戸には2度の思い出があります。

ひとつめは、まさにあのひとと。
神戸の大学に通っていたあのひとのもとへ、たしか2泊くらいの小旅行。大阪にいる、あのひとの親戚のところに泊まらせてもらいました。今思うと厚かましいことですね。若いから許されることでした。
異人館や大阪の水族館をふたりで歩いて回り、その途中幾度か恋人同士に間違えられ、いやいや…と否定を繰り返すうちに、もうこのひとが恋人でいいじゃないかと初めて思ったのがこのときでした。

このときは、かなり思い詰めて、このひとと恋人になりたいと強く思ったものでした。
しかし結局行動は取りませんでした。
ぼくはこのときにすでに、ふられて傷つく傷みよりも、思いを伝えられない傷みのほうが、生涯にわたって小さいと決めていたのでした。ぼくが自分の手で選んだみちなのでした。

ふたつめは、社員旅行で横浜から神戸へのクルーズをしたときのこと。
変わった社員旅行で、船で神戸に着いたら現地解散、という流れでした。
そのまま新幹線で東京へ戻る人たちが大半のなか、ぼくは神戸には当時住んでいた友だちのウチに泊まらせてもらうことにしました。高校から気心の知れた付き合いです。社員旅行以上に、その夜がぼくの思い出です。
帰る日、神戸の風俗街を歩いてみようと言い出しました。たしかぼくがです。
そこを歩いて、そのときはどこかに入ろうと思っていたのですが、お金か度胸のどちらかが足りなく、断念したのでした。
この話には後日談があり、このときお店をいくつか回った際、店舗の名刺を一枚もらってしまっていたのです。それをぼくはこともあろうに、ズボンか何かのポケットにしまったようでした。
それから半年後くらいから、ぼくはあなたと同棲を始めます。何が起こったのか、あなたは覚えているでしょう。本当に身に覚えがなかったので落ち着いて対応したように見せながら、実は何か過去にしてしまっていたのだろうかと内心ドキドキしたのを覚えています。

そんな甘酸っぱい思い出のある神戸。

そこへ、あなたと行きました。

数日をあなたと過ごし、そしてあなたとの間にいる子どもと過ごし、ぼくはやはり「大きな傷み」が苦手だと感じました。
家族でいる時間が、とても心地よいのです。
これを失い、そしてあなたを傷つける傷み。
これに比べたら、ぼくが密かに思うひとと一緒にいられないことなど、小さな傷みに思えるのです。

そういう選び方が、本質的には自分と他人を深く傷つけていると知りながら、ぼくは自分のしてきた「選び方」を、今も変えられないでいるのです。