読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

愛する妻への手紙

最初の手紙から読んでください。http://familin2006.hatenadiary.jp/entry/2014/11/25/093359

30通目、あなたを呼ぶ声は風にさらわれて。

何度もあのひとの名前を、心のなかで呼んでしまいます。

何がぼくをここにつなぎとめているかと言えば、いちばんにぼくとあなたの子どもです。
ぼくのことを「とうと」と呼んで、だっこを要求してくるその子には、あまりに罪が無さ過ぎます。この子を片親にしてしまうのは、ぼくには耐え難いものです。

そしてあなたの献身。あなたがぼくに尽くしてくれる心を裏切るとしたら、それはぼく自体の傷みにもなります。

一方、いまの姿が正しいかと問われたら、どうしてもイエスと答えられないのも事実です。子どもによってつなぎとめられる夫婦関係であってよいのか。あなたを騙したままともにいることのほうが裏切りではないのか。問いは永遠です。

あのひとの名前を、何度も呼んでしまいます。
つらいとき、嬉しいとき、あのひとの名を、いちばん先に呼んでしまいます。

ぼくに、父親の資格は、たぶんないのです。
わかっていながら、「とうと」という言葉の甘美な響きのなかに、今しばらく浸っていたいと、そうも思ってしまうのです。